〜 とある魔王の物語 〜



 あれは何時の事だったか・・・
 周りの者が
「勇者が誕生した!」
と騒いでいた。

「勇者とはなんだ?」
と聞き返すと
「人間共にとっては切り札、我ら魔族には天敵と言っていい存在です」
との事、どうやら将来、我と対決する事になる者らしい。
 "生まれたばかりなら今のうちに殺せばいい"と思ったのだが、人間共の小賢しい考えというか、『魔族の魔力に反応し、動けなくする結界』の中の神殿にて育てられる事になったらしい。

 一計を案じ、その神殿のある街に行ってみた。
 街に入る前に、魔力を封印する魔具を自ら装着する、本来は捕えた魔族を反抗できないようにするための物だが、これなら街の中で行動できる・・・魔力など使えなくても、赤子を殺す事など造作もない。

 神殿内部の移動にはそれなりに苦労はしたが、勇者がいる部屋にたどり着いた。
 ベッドの中で安らかに眠る赤子・・・これのどこが我の脅威になるというのだ・・・抱き上げてじっくりと観察してみるが、普通の赤子と違いがあるとは思えない・・・。
 急に、腕の中の赤子が身じろぎをした、その数瞬後、生温かい物で我の服が濡れ、独特の臭いが・・・・・・。
「おのれ、赤子とはいえ流石は勇者!そのような反撃があるとはな!」
 思わず赤子をベッドに放り出す、と勇者は火が点いたように泣き出し、人間共が駆け付ける音が聞こえてきた・・・今回はこれまで、と撤退するしかなかった。

 それから時々勇者の情報を部下に探らせた、どうやら神殿の者にかなり過保護に育てられているらしい・・・・・・別に小○をひっかけられた事がトラウマになって見に行かなかった訳ではないぞ。




 時は経ち、勇者が旅に出るという情報を入手した・・・あの結界の中から漸く出てくる、今こそ昔の屈辱を晴らしてやろう!


 我が姿が人間に見える魔法を使い、勇者の住む街へ向かう・・・街の外でスライム共が群れになって騒いでいるのを見かけた。
 一体何が?と思い見に行くと、勇者がタコ殴りに遭っていた!

「お前は一体何をしている!」
思わずスライム共を蹴散らし、勇者の胸倉を掴む。
『あ、助けてくれたんだ、ありがとう』
「礼などいらん、一体どういう事だ?と聞いておるのだ!」
『ああ、使命を果たすために旅に出た所なんだけど、スライムに遭遇して戦っていたら何だか囲まれちゃって・・・』
「・・・・・・今すぐ脱げ」
『え?』
「今すぐその重石としか言いようのない装備を外せ!
大体、レベル1のくせに何故"はがねのよろい"と"はがねのけん"を装備している!装備というのは身につけるだけではない!動き回って戦う事が出来てこそ役に立つのだ!」
『う・うん・・・でも装備無しで大丈夫かな?』
「最低限の攻撃魔法は使えるんだろう?そいつを連発すれば殺られる前に片づける事が出来る」
『ホント?さっきは囲まれちゃったんだけど?』
「(ハア)それはお前の動きが鈍すぎて、時間がかかりすぎ、騒ぎを聞きつけた他の魔物を呼び寄せてしまったからだ、1対1ならお前が勝てる」

 勇者は我のアドバイスで次に遭遇したスライムには勝てた、どうやら初勝利だったらしく、かなりはしゃいでいる。

「みんなに"装備は最高の物を装備しておけ"って言われていたんだけど・・・」
・・・そのアドバイスは間違っていない、勇者の場合周りが甘やかしすぎて餞別を与えまくったせいで、力量以上の装備を買えてしまっただけだ。

「今のうちに傷を回復しておけ、敵に遭ってからでは遅いぞ・・・・・・おい、何をしている!」
『何って、薬草を使おうかと・・・』
「お前の足元に生えている草は何だ?使う場合は携帯しにくい物から使うのが鉄則だろう!」
『ひょっとして、薬草が生えてるの?』
「・・・お前が持っている薬草は、お前の足もとの草を薬効と保存と携帯性を兼ね備えるように加工した物だ」
『ああ、そういえば本で見た物と同じ形だ、へえ〜こんなふうに生えているのか』
 どうやら街の者共はただ勇者を甘やかしていた訳ではないらしい、話してみるとかなりの知識を持っている事が分かった・・・・・・ただ箱入りすぎて実物を見たことが無く、その知識がほとんど役に立っていない。

『助けてもらった上に、色々教えてくれてありがとう、ところで君は誰?』
「我か?魔お・・・」
 思わず魔王と名乗ろうとして口ごもる、トボけた雰囲気は誘導尋問の為の演技だったのか!

『まお君?僕は〜〜これからも宜しくね!』
・・・いや、ただの天然か。
『ねえ、まお君、仲間になってよ、魔王を倒すのに君みたいな人が居てくれると心強いんだけど』
・・・魔王退治の旅に、魔王をスカウトする奴が何処にいる!・・・・・・ここに居たか。
「悪いが、我にはやらねばならぬことがある、そなたの使命には協力出来ぬ」
『そっか・・・無理に付き合わせる訳にはいかないよね、ごめん』
 そう言って勇者は歩き出した・・・肩を落とし"とぼとぼ"という擬音が見えそうな歩き方だ・・・ええい!あれでは悪人につけ込まれる隙を与えている様なものではないか!
「気が変わった、少しだけなら付き合ってやる、お前が他の仲間を揃えるまでならな!」
『本当!ありがとう、まお君!』


『随分大きな街だね』
「ここなら人も多い、情報も仲間も集まりやすいだろう、しばらくはこの街を拠点にするといいだろう、まずは宿を探すとしよう」 
『うん・・・えっと、あのね・・・僕、お金持っていないんだけど・・・』
「知っている、先程ベタな身の上話をした者に、お前は有り金全部くれてやったからな。 だが、"モンスターが落としたレアアイテムを売るから、大丈夫"と言っていただろう?」

 そう、この天然勇者は通りすがりの男の、身の上話に貰い泣きし、持ち金を全部くれてやったのだ。

『うん、そのレアアイテムなんだけど・・・無いんだ、街に入るまでは確かにあったのに・・・どこかに落としたのかなあ?』
「・・・・・・お前の事だ、その可能性も高いが、先程ぶつかった男がスリだったという可能性もあるな・・・大体、人がぶつかってきて、どうしてお前は普通にしているんだ!」
『えっ?だって、人とぶつかるなんて、いつもの事じゃないか』
「いつも? お前は運動神経は悪くないのにそんなに人とぶつかるのか?」

  詳しく話を聞くと、どうやら"お近づきになる為に、ワザとぶつかる"というベタベタな手段を使う者がかなりいたらしい・・・そのせいで、見知らぬ者がいきなりぶつかってきても、警戒心を持たない性格になったらしい・・・大物というか愚かというか。

 そう、我の役回りはまさに"子守"だった、世間知らずの勇者はすぐに騙される。
人買いに騙されて売り飛ばされそうになるとか
良く分からない物を買い食いし、腹を壊すとか
・・・その度に旅先での金の稼ぎ方を教え、人買い共を半殺しにし、看病をし、勇者に説教をする。

そして、別れの日が来た。
 敵前逃亡だの何だのと騒ぐ仲間たちを鎮め、勇者は笑って『今までありがとう、さよなら』と言った・・・目には涙が浮かんでいたが。


 ・・・そして、魔王城、魔王謁見の間にての再会・・・
『えっ、まお君?・・・どうして?』
「よく来たな、勇者よ、ここまで来た事は褒めてやる、褒美に我が直々に相手をしてやろう」
『くっ、お願いやめて!どうして君と戦わなくてはならないんだ!』
・・・よく見ると、顔に擦り傷がある・・・あれほど回復は戦う前に済ませておけと言ったのに、仕方がない奴だ・・・。

「さあ、回復してやろう」
 勇者の周囲に居るオマケ共もついでに回復してやり・・・

 我は宣言する

「全力でかかってくるがいい!」
















悠様から頂きました!
素敵なSSありがとうございましたー!
何という可愛らしい勇者と魔王…!!!

体験版に入っていたメモの「2次創作歓迎」の文字に目を止めて頂き、書かれた勇者と魔王のSSをわざわざ送って下さったという…本当に素晴らしいお方です…!!
物凄い嬉しいですー!わああああい!

↓の画像は悠様へお礼としてお送りしたものです。
今回は本当に素晴らしいSSをありがとうございましたーー!








 

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